1結論:20代は経験を横に広げるより、まず一つの仕事を深くした方がいい

若いうちは、いろいろな経験をした方がいいと言われる。

これは間違いではない。

いくつかの仕事を経験しないと、自分が何に向いているのかも分からないし、周辺領域を知っていることが後から役立つこともある。

ただ、20代のキャリアを考えるなら、経験を横に増やし続けるだけでは弱いと思う。

営業もやった。

マーケティングも少しやった。

採用にも関わった。

プロジェクト管理も経験した。

資料作成も得意になった。

一見すると、かなり幅広い経験がある。

でも転職市場で最後に見られるのは、「あなたは何の仕事を、どこまで任せられる人なのか」ということだ。

会社員の仕事には、営業、コンサル、マーケティング、経理のように、ある程度名前のついた職種がある。

そして、それぞれの職種には、その仕事で強くなるために欠かせない中核能力がある。

だから20代では、何でも少しずつ経験するより、まず一つの職種で「これなら任せられる」という深さを作った方がいい。

2職種には「これができないと始まらない」という中核がある

仕事は何でも同じように評価されるわけではない。

職種ごとに、本丸になる能力がある。

例えば営業なら、単に人と話せるだけでは足りない。

顧客の状況を聞き、課題を見つけ、提案を作り、最終的に受注まで持っていけるかが中心になる。

コンサルなら、会議を回したり資料を整えたりすることも必要だが、それだけでは弱い。

顧客の課題を整理し、論点を作り、分析し、解決策を考え、それを顧客に伝えることが中核になる。

マーケティングなら、広告を運用した経験があるだけでは十分ではない。

数字を見て改善し、顧客獲得の仕組みを考え、商品や事業に合わせて施策全体を設計できるかが重要になる。

経理なら、請求書処理や仕訳だけを長く続けても、それだけでは上位のポジションへ進みにくい。

月次決算、年次決算、連結、開示、会計論点の判断と、より難しい仕事を任される必要がある。

どんな職種にも、この部分が弱いと、その職種として強いとは言われにくいという中心軸がある。

3キャリアには「横方向」と「縦方向」がある

仕事の経験には、横方向に広がるものと、縦方向に深くなるものがある。

横方向とは、経験する仕事の種類が増えることだ。

例えば営業をしながら、採用にも関わる。

SNS運用もする。

営業企画も経験する。

簡単なデータ分析もする。

こうすると経験の種類は増える。

一方で縦方向とは、同じ職種の中で、より難しい仕事を任されるようになることだ。

営業なら、決められた商品を説明するところから、自分で顧客課題を見つけて提案し、大型顧客を攻略するところまで深くなっていく。

コンサルなら、指示された作業から始まり、一つの論点を持ち、顧客との議論を主導し、最終的には案件全体を設計するところまで上がっていく。

どちらも経験は増えている。

ただ、市場価値を作る上では、まず縦方向に伸びることが重要になる。

4営業でも、横に広がるだけでは弱い

営業は専門性が見えにくい仕事に見えるかもしれない。

資格が必要なわけでもないし、技術職のように扱うツールが明確なわけでもない。

でも営業にも、はっきりと縦方向がある。

例えば最初は、決められた商品説明をして既存顧客を担当する。

次に、顧客の課題を聞いて自分で提案を組み立てる。

その後、自分で新規案件を作り、受注まで持っていく。

さらに大型顧客を担当し、顧客側の複数部署や自社の関係部署を巻き込みながら商談を進める。

その先では、重要アカウント全体の攻略方針や営業戦略まで考える。

同じ営業でも、任されている仕事の難易度はかなり違う。

一方で、

営業を少しやった。

採用もやった。

SNSも運用した。

企画会議にも参加した。

という経験を増やしても、営業として大型案件を自力で取れないなら、営業の縦軸はあまり伸びていない。

経験の数が増えたことと、その仕事で強くなったことは別だ。

5コンサルは「会議を回せる」だけでは深くならない

コンサルでも同じことが起きる。

若手のうちは、議事録を書く。

データを整理する。

上司の指示で資料の一部を作る。

定例会議を運営する。

こうした仕事から始まることが多い。

もちろん必要な経験ではある。

ただ、それだけを何年も続けても、コンサルとしての深さはあまり増えない。

縦方向に伸びるなら、

担当する論点を自分で考える。

必要な分析を設計する。

顧客と直接議論する。

顧客の反応を見ながら提案を修正する。

一つのワークストリームを任される。

最終的には、顧客の課題設定から案件全体の提案まで考える。

というように、任される範囲が広がっていく必要がある。

「定例会議を回した経験がある」という横の経験より、顧客の課題を自分で整理し、解決まで持っていけるかの方が重要になる。

6マーケティングは「施策を触った数」では決まらない

マーケティングも、横に広がりやすい仕事だ。

SNSを運用する。

広告を出す。

SEOをやる。

メールマーケティングをする。

イベントを開催する。

扱う施策はいくらでもある。

だから、いろいろ触っているだけで経験豊富に見えやすい。

ただ、本当に重要なのは、施策の種類ではない。

例えば最初は、一つの広告媒体を決められた条件で運用する。

次に、数字を見ながら広告費や訴求を改善する。

その後、広告だけでなく複数のチャネルを組み合わせて顧客獲得を考える。

さらに、どんな顧客を狙うのか、どんな商品をどう売るのかまで考える。

最終的には、事業全体の売上や利益から逆算してマーケティング戦略を設計する。

このように、作業から施策へ、施策から戦略へと縦方向に深くなる。

SNS、SEO、広告を全部少しずつ触ったからといって、必ずしもマーケターとして強いわけではない。

大事なのは、その手段を使ってどこまで事業成果を作れるかだ。

7経理は縦方向の成長が分かりやすい

経理は、縦方向の成長をイメージしやすい仕事だと思う。

最初は、仕訳や入出金管理などの日常経理を担当する。

次に、月次決算を締める。

その後、年次決算を担当する。

さらに、連結決算や開示業務を経験する。

難しい会計処理について、自分で論点を整理して判断する。

最終的には、会計方針や決算体制そのものを考える側へ回る。

同じ経理という名前でも、任せられる仕事は段階的に難しくなる。

だから経理経験5年と言っても、5年間ずっと同じ入力作業をしていた人と、年次決算や連結まで任されるようになった人では、市場から見た価値は違う。

重要なのは年数ではなく、どこまで縦に上がったかだ。

8「少しできます」を増やし続けても、強いポジションは作りにくい

キャリア初期では、いろいろな仕事を経験することに価値がある。

ただ、いつまでも「少しできます」を増やし続けると、どこかで困る。

営業は少しできます。

マーケティングも少しできます。

データ分析も少しできます。

プロジェクト管理も少しできます。

採用も経験しました。

こうなると、一見すると万能に見える。

でも企業側から見ると、

営業として大型顧客を任せられるのか。

マーケターとして予算を持って施策を設計できるのか。

コンサルとして顧客課題を一人で整理できるのか。

というところで止まる可能性がある。

幅広い経験は、中核能力がある程度深くなってからの方が価値を持つ。

「何でも少しできる人」より、「まずこれなら任せられる。その上で周辺も分かる人」の方が強い。

9まずT字の縦棒を作る

一つの専門性が深く、その周辺領域も広く理解している人を、T型人材と呼ぶことがある。

キャリアを考える上では、この順番が重要だと思う。

最初から横棒を長くする必要はない。

まず縦棒を作る。

営業なら、自力で案件を作って受注まで持っていけるようになる。

コンサルなら、一つの論点を任され、顧客と直接議論できるようになる。

マーケティングなら、一つの施策を運用するだけでなく、数字から改善策を考えて成果を作れるようになる。

経理なら、単純な処理だけでなく、決算を一通り任せられるようになる。

その状態になってから周辺領域を広げる。

営業にマーケティングを足す。

コンサルに特定業界の専門知識を足す。

マーケターがデータ分析や商品企画まで理解する。

経理が財務や経営管理まで広げる。

こうすると、横の知識が中核能力と掛け算になる。

1020代は「何を経験したか」より「何が深くなったか」を見る

キャリアを振り返るとき、経験したプロジェクトを並べるだけでは不十分だと思う。

営業プロジェクトをやった。

新商品の立ち上げに参加した。

SNS運用をした。

業務改善にも関わった。

これらを経験したこと自体には価値がある。

ただ、本当に見た方がいいのは、

その経験によって、自分の中核能力の何が一段深くなったのか。

営業なら、提案力が上がったのか。

自分で案件を作れるようになったのか。

大型顧客を任せられるようになったのか。

コンサルなら、担当論点が広がったのか。

顧客との議論を主導できるようになったのか。

マーケティングなら、施策の運用から戦略設計へ進んだのか。

経理なら、処理業務から決算、さらに難しい会計判断へ進んだのか。

経験を増やすことより、同じ職種の中で仕事の難易度が上がっているかを見る。

11異動や転職でも「縦に伸びるか」を考える

会社を変えるときや部署を変えるときも、この考え方は使える。

新しい経験ができそうだから異動する。

違う業界も見てみたいから転職する。

それだけでは、横方向に動いているだけかもしれない。

例えば営業として深くなりたいなら、

より大きな顧客を担当できる。

より複雑な商材を売れる。

自分で案件戦略を考えられる。

という仕事へ移る方が縦に伸びやすい。

マーケターなら、広告運用だけを続けるより、より大きな予算を持つ、複数チャネルを担当する、商品戦略まで関わる仕事の方が深くなる。

経理なら、単純な担当替えより、月次から年次、単体から連結へと仕事の難易度が上がる方がいい。

転職や異動のたびに新しい経験を増やすのではなく、自分が伸ばしたい職種で一段上の仕事ができるかを見る。

12若いうちは横に動いてもいい。でも、いつか縦軸を決める

最初から自分に向いている仕事が分かる人ばかりではない。

営業をやってみたら、意外と向いていた。

マーケティングをやってみたら、数字を考える方が面白かった。

逆に、企画職に憧れていたが実際にやってみると合わなかった。

そういうことは普通にある。

だから20代前半くらいまでは、横方向の経験にも意味がある。

実際に仕事をしてみないと、自分がどの軸を掘ればいいか分からない。

ただ、いつまでも探索だけを続けると、どの職種でも深さが作れない。

ある程度試したら、

自分は何の仕事で強くなるのか。

を決める必要がある。

決めたら、その職種の中で難しい仕事を一つずつ取りにいく。

13強い会社員は「一つ深く、周辺も分かる」

キャリアの後半で強くなるのは、狭い仕事しかできない人でも、何でも少しずつできる人でもない。

一つの仕事で明確な強みがあり、その周辺まで理解できる人だと思う。

大型顧客を攻略できる営業が、マーケティングや商品戦略も分かる。

顧客の課題解決ができるコンサルが、特定の業界にも詳しい。

事業成果を作れるマーケターが、データやプロダクトも理解している。

決算や会計に強い経理が、財務や経営管理まで分かる。

こうなると、一つの職種で強いだけではなく、次に進めるポジションも増える。

縦方向の専門性が、後から横方向の機会を増やしてくれる。

14結論:まず一つの仕事で「任せられる人」になる

若いうちは経験の数を増やすことに目が向きやすい。

営業もやった。

マーケティングもやった。

企画もやった。

プロジェクト管理もやった。

確かに経験は多い。

でも、それだけで強い会社員になるわけではない。

大事なのは、

何の仕事なら、自分に任せてもらえるのか。

ということだ。

営業なら、自分で案件を作り受注できる。

コンサルなら、顧客の課題を整理して提案まで持っていける。

マーケティングなら、数字を見ながら施策を設計して成果を作れる。

経理なら、決算や難しい会計論点を任せられる。

まず一つの職種で、そこまで深くなる。

その後で周辺領域へ広げれば、横の経験も強みになる。

20代のキャリアは、経験をたくさん集めるゲームではない。

まず一つの仕事で縦に深くなり、その強みを土台に横へ広げていくゲームだ。

何でも少しできる人になる前に、まず一つ、「これは任せられる」と言われる仕事を作った方がいい。